WHIP(与四球数)とは?投手評価に使える数値を初心者向けに解説

WHIPは、投手が1イニングでどれだけ走者を出したかを示す指標です。本記事では、その基本的な意味や計算方法、防御率との違いを初心者にも分かりやすく解説します。

さらに評価の目安や最新ランキングも紹介し、プロ野球観戦をより深く楽しむヒントをお届けします。

目次

WHIPとは 1イニングに何人の走者を出したかを示す指標

野球の試合を見ていると、「防御率」という言葉はよく耳にしますが、最近では「WHIP(ウィップ)」という指標も頻繁に使われるようになりました。WHIPは、投手を評価するための重要な指標の一つで、特にその投手がどれだけ安定してイニングを抑えられるかを示しています。

具体的に言うと、「1イニングあたりに何人のランナー(走者)を出したか」を表す数値です。この数値が低ければ低いほどランナーを出しにくい、つまり安定感のある優秀な投手と評価されます。防御率では見えにくい投手の本当の実力を把握するうえで、非常に役立つ指標なのです。

WHIPの読み方と正式名称

WHIPは、そのままアルファベット読みで「ダブリュー・エイチ・アイ・ピー」ではなく、「ウィップ」と読みます。英語で「鞭(むち)」を意味する「whip」と同じ発音です。

そして、WHIPの正式名称は「Walks plus Hits per Inning Pitched」です。この英語の頭文字を取ってWHIPと呼ばれています。それぞれの単語の意味を分解すると、この指標が何を示しているのかがより明確に理解できます。

単語日本語意味
Walks四球フォアボールの数
plusプラス~を足す
Hits被安打打たれたヒットの数
per Inning Pitched投球回あたり1イニングあたりを意味する

つまり、WHIPはつまり、WHIP =(与四球 + 被安打) ÷ 投球回。走者をどれだけ出さずに投球できたかをシンプルに表す指標と言えるでしょう。

セイバーメトリクスにおけるWHIPの位置づけ

WHIPは、「セイバーメトリクス」と呼ばれる統計的野球分析の中で生まれた指標の一つです。1979年に野球ジャーナリストのダニエル・オクレント氏が考案したもので、今ではMLBやNPBでも一般的に用いられています。

セイバーメトリクスの指標には複雑な計算を要するものも多いですが、WHIPは足し算と割り算だけで計算できるため、非常に分かりやすく、ファンやメディアにも広く浸透しています

従来よく使われてきた防御率は「どれだけ失点を防いだか」という結果に基づく数値ですが、失点には守備力や不運など投手以外の要素も絡みます。一方でWHIPは「与四球」と「被安打」だけに注目しており、投手自身の安定感をより正確に示す指標として注目されているのです。

初心者でも簡単 WHIPの計算方法を解説

WHIPという言葉を聞くと、何やら難しい計算が必要なように感じるかもしれませんが、計算方法は非常にシンプルです。足し算と割り算さえできれば、誰でも簡単に算出できます。野球のスコアブックを見ながら、応援している投手のWHIPを自分で計算してみるのも面白いでしょう。

ここでは、WHIPの計算式と、具体的な投球成績を使った計算例を分かりやすく解説します。

WHIPの計算式 (被安打 + 与四球) ÷ 投球回

WHIPは次の式で求められます。

WHIP = (被安打 + 与四球) ÷ 投球回

この式が示しているのは、その投手が「1イニングあたりにヒットとフォアボールで何人の走者を出したか」という非常にシンプルな内容です。計算に必要な3つの要素について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

項目内容
被安打投手が打たれたヒットの数(単打・二塁打・三塁打・本塁打すべて含む)
与四球投手が与えたフォアボールの数。敬遠も含む。ただし死球やエラーによる出塁は含まれない
投球回投げたイニング数。1アウト=1/3回、2アウト=2/3回として扱う

具体的な投球成績でWHIPを計算してみよう

それでは、実際の投球成績を想定してWHIPを計算してみましょう。2つの異なるケースでシミュレーションします。

ケース1:投球回に端数がない場合

まずは、計算しやすいようにイニングの途中で交代せず、きっちり投げ切った場合の成績で計算してみます。

A投手の登板成績
投球回7回
被安打5
与四球2

この成績を先ほどの計算式に当てはめてみましょう。

(被安打 5 + 与四球 2) ÷ 投球回 7 = 1.00

計算の結果、この試合におけるA投手のWHIPは「1.00」となります。つまり、1イニングあたりちょうど1人の走者を出した計算になります。安定感のある素晴らしい投球内容と評価できます。

ケース2:投球回に端数がある場合

次に、リリーフ投手などによく見られる、イニングの途中で降板したケースを計算してみましょう。投球回の端数は、計算上は小数に直して扱います。

B投手の登板成績
投球回5回 1/3
被安打4
与四球3

この場合、投球回の「5回 1/3」は、計算する際には「約5.33」として扱います。それでは、計算式に当てはめてみましょう。

(被安打 4 + 与四球 3) ÷ 投球回 5.33 ≒ 1.31

この投手のWHIPは 約1.31となります。1イニングあたり1.3人ほど走者を出していることになり、安定感はやや欠ける印象です。

WHIPの目安は?数値から投手のレベルを評価する

WHIPの計算方法がわかったところで、次はその数値が一体どのくらいのレベルを示すのか、具体的な目安を見ていきましょう。WHIPは低ければ低いほど「ランナーを出さない優秀な投手」と評価できます。ここでは、NPB(日本プロ野球)を基準とした一般的な評価の目安を解説します。

1.00未満は球界を代表するエース級

WHIPが1.00未満というのは、1イニングあたりに出すランナーが平均で1人未満ということを意味します。これはまさに「神レベル」と言える驚異的な数値であり、達成できるのはその年のリーグを代表するような、ごく一握りの超一流投手だけです。

このレベルの投手は、相手打線にほとんどチャンスを与えず、試合を完全に支配することができます。シーズンの終わりには、最優秀防御率や最多勝、そして沢村賞といった投手最高の栄誉を手にする可能性が非常に高い投手と言えるでしょう。MLB(メジャーリーグ)においても、サイ・ヤング賞を受賞するような投手は、WHIPが1.00を切ることがほとんどです。

1.20未満なら優秀な先発投手

WHIPが1.20未満であれば、チームの主軸を担うエース級、あるいは非常に優秀な先発投手と評価できます。常に安定して試合を作ることができ、チームに多くの勝利をもたらす存在です。

先発ローテーションの一角として、年間を通して安定した投球が期待できるレベルです。このクラスの投手が複数いるチームは、ペナントレースを有利に進めることができるでしょう。多くのファンや解説者が「今日の先発なら安心して見ていられる」と感じるのが、このWHIP1.20未満の投手たちです。

NPBの平均的なWHIPは1.20から1.30前後

NPBにおける先発投手の平均的なWHIPは、シーズンにもよりますが、おおむね1.20から1.30の間に収まることが多いです。したがって、この数値が一つの基準となります。

もし応援している投手のWHIPが1.25であれば、リーグの平均レベルで仕事をしていると判断できます。逆に1.30を超えているようであれば、平均よりもランナーを出しやすい傾向にある、と見ることができます。まずはこの「1.20~1.30」という平均ゾーンを覚えておくと、投手の評価がしやすくなります。

1.40以上は改善が必要なレベル

WHIPが1.40を超えてくると、投手として改善が必要なレベルと評価されることが多くなります。1イニングあたりに1人か2人のランナーを常に出している状態で、常にピンチを招きやすい苦しい投球を強いられていることを示します。

このレベルの投手は、長いイニングを投げることが難しく、失点のリスクも高まります。先発投手であれば試合を組み立てるのに苦労し、中継ぎ投手であっても大事な場面での起用は難しくなるでしょう。制球力を向上させて与四球を減らすか、投球術を磨いて被安打を減らすといった課題に取り組む必要があります。

これらの目安を一覧表にまとめました。投手の成績を見るときに、ぜひ参考にしてみてください。

防御率との違いとは WHIPで投手の安定感がわかる

野球の投手評価で最もよく使われる指標といえば「防御率」を思い浮かべる方が多いでしょう。一方、近年よく使われるようになった「WHIP」も重要な評価軸です。両者はどちらも投手の力を測るものですが、焦点を当てる部分が異なります。

WHIPは「どれだけ安定してアウトを積み重ねられるか」、防御率は「結果としてどれだけ失点を防いだか」を示します。両方の数値を見ることで、その投手の本当の実力や投球スタイルが見えてくるのです。

WHIPは「投手の安定感」防御率は「結果的な失点しにくさ」

WHIPと防御率の最も大きな違いは、その計算方法と評価の視点にあります。それぞれの指標が何を示しているのか、下の表で比較してみましょう。

評価項目WHIP防御率
評価する側面投手の安定感、走者を出さない能力結果的な失点のしにくさ
計算要素被安打、与四球、投球回自責点、投球回
指標が示すもの1イニングあたりに出す走者の数9イニング投げたと仮定した場合の自責点
他の要因の影響比較的少ない(投手の純粋な能力に近い)大きい(味方の守備力、運、長打など)

WHIPは「被安打」と「与四球」という、投手の責任が明確な要素だけで計算されます。そのため、味方の守備力や運に左右されにくく、投手がどれだけ安定してイニングを抑えているか、その投手本来の能力を評価するのに適しています。WHIPが低い投手は、常に試合を優位に進められる「ゲームメイク能力が高い投手」と言えるでしょう。

一方、防御率は「自責点」を基にしており、走者を出しても最終的にホームに還さなければ悪化しません。そのため、ピンチでの粘り強さや、味方の好守備に助けられた結果も反映されます。こちらは「失点を防ぐ」という最終結果に焦点を当てた指標です。

WHIPが良いのに防御率が悪い投手の特徴

「普段はテンポよく抑えるのに、なぜか失点が多い」と感じる投手は、このタイプに当てはまるかもしれません。WHIPが良い(走者をあまり出さない)にもかかわらず、防御率が悪い投手には、主に次のような特徴が考えられます。

投手の特徴具体的な傾向
ピンチで打たれやすい得点圏に走者を背負うと集中打を浴びやすい。「劇場型」と呼ばれるタイプ。
被本塁打が多い単打も本塁打もWHIP上は同じ「被安打1」。一発でまとめて失点することが多い。
運に恵まれないポテンヒットや守備範囲外への打球など、不運な失点が増える。

WHIPが悪いのに防御率が良い投手の特徴

「いつもランナーを背負ってハラハラさせるのに、なぜか失点は少ない」という投手もいます。WHIPが悪い(走者をよく出す)のに、防御率が良い投手は、失点を防ぐための特別な能力を持っていると考えられます。

投手の特徴具体的な傾向
ピンチに強い得点圏で集中力を発揮し、要所を締める粘り強さがある。
奪三振能力が高い走者を出しても三振で進塁を防ぎ、ピンチを切り抜けられる。
併殺を奪うのが上手いゴロを打たせてダブルプレーを取り、一気にピンチを解消できる。

2023年プロ野球のWHIPランキング上位選手を紹介

WHIPがどのような指標か、計算方法や目安について理解が深まったところで、実際のプロ野球選手が記録した数値を見ていきましょう。

ここでは、2023年シーズンに規定投球回数を達成した投手の中から、特に優れたWHIPを記録した選手をセ・リーグとパ・リーグに分けてトップ5まで紹介します。球界を代表する投手たちが、いかにランナーを出さない安定した投球をしていたかが分かります。

セ・リーグのWHIPトップ5

2023年のセ・リーグは、リーグ優勝と日本一に輝いた阪神タイガースの投手が2名ランクインするなど、チームの躍進を支えた投手たちの活躍が目立ちました。特に1位の村上頌樹投手は、0.74という驚異的な数値を記録し、最優秀選手(MVP)と最優秀防御率のタイトルも獲得しました。2位以下の投手も軒並み1.00を下回る「エース級」の成績を残しており、セ・リーグのレベルの高さがうかがえます。

順位選手名(所属)WHIP投球回被安打与四球
1位村上 頌樹(阪神)0.74144.18819
2位東 克樹(DeNA)0.95172.114618
3位大竹 耕太郎(阪神)0.98131.211316
4位T. バウアー(DeNA)0.99130.211316
5位床田 寛樹(広島)1.01151.112924

パ・リーグのWHIPトップ5

パ・リーグでは、オリックス・バファローズのリーグ3連覇に大きく貢献した山本由伸投手が、両リーグ通じてもトップクラスの成績で1位に輝きました。山本投手は3年連続で沢村賞を受賞するなど、まさに球界のエースと呼ぶにふさわしい圧倒的な安定感を見せつけました。2位にも同じくオリックスの宮城大弥投手がランクインし、強力な先発二本柱がチームを牽引したことがわかります。上位5名は全員WHIP1.10未満と、非常にハイレベルな争いとなりました。

順位選手名(所属)WHIP投球回被安打与四球
1位山本 由伸(オリックス)0.86164.011427
2位宮城 大弥(オリックス)1.02146.212623
3位伊藤 大海(日本ハム)1.03149.212232
4位加藤 貴之(日本ハム)1.04162.215118
5位種市 篤暉(ロッテ)1.06157.012145

WHIPを見るときの注意点と限界

WHIPは投手の安定感を測る上で非常に優れた指標ですが、万能というわけではありません。WHIPの数値だけを見て投手の全てを評価してしまうと、その投手の本質的な能力を見誤る可能性があります。

ここでは、WHIPをより深く理解するために知っておくべき注意点と、この指標が持つ限界について解説します。

エラーによる出塁は計算に含まれない

WHIPの計算式は「(被安打 + 与四球) ÷ 投球回」です。この式を見てわかる通り、計算には野手の失策(エラー)による出塁が含まれていません。

たとえばショートがゴロを弾いてランナーを出しても、記録はエラー扱いなので投手のWHIPには影響しません。これは合理的な一方で、守備力の影響を完全に排除できるわけではありません。

  • 守備が堅いチーム:ヒットになるはずの打球をアウトにしてくれる → 投手のWHIPは改善されやすい
  • 守備に課題があるチーム:本来エラーの打球がヒット判定されることも → 投手のWHIPは悪化しやすい

このため、WHIPは投手の力をよく反映しますが、チーム守備力の影響を間接的に受けることは覚えておきましょう。

長打も単打も同じ被安打1として扱われる

WHIPが持つもう一つの大きな限界は、ヒットの種類を区別しない点です。計算上、内野安打も、外野を真っ二つに破る二塁打も、スタンドに飛び込むホームランも、すべて同じ「被安打1」としてカウントされます。

そのため、WHIPだけでは「どのような質の打球を打たれているか」を判断することができません。以下の2つのケースを比較してみましょう。

項目ケースAの投手ケースBの投手
投球内容(1イニング)三者凡退の後、ソロホームランを1本打たれる(3アウト)三者凡退の後、ポテンヒット(単打)を1本打たれる(3アウト)
WHIP1.00(被安打1 ÷ 1回)1.00(被安打1 ÷ 1回)
失点10
試合への影響確実に1点を失う無失点だが、走者を一人背負う

表が示すように、両投手ともWHIPは同じ「1.00」ですが、試合結果に与える影響は全く異なります。ケースAの投手は一発を浴びる「長打を打たれやすいタイプ」、ケースBの投手は「単打で粘られるタイプ」と評価できるかもしれません。

このように、WHIPはあくまで「1イニングあたり何人の走者を出したか」という量的な安定感を示す指標です。失点に直結しやすい長打をどれだけ打たれているか、という質的な側面を評価するには、被本塁打率や被OPS(被打率+被長打率)といった他の指標と組み合わせて見ることが重要になります。

まとめ

WHIPは「1イニングあたりに出した走者の数」を示す指標で、投手の安定感を評価するのに役立ちます。計算式は「(被安打+与四球)÷投球回」とシンプルで、数値が低いほど優秀な投手と判断できます。防御率が「結果的な失点しにくさ」を示すのに対し、WHIPは「そもそも走者を出しにくいか」がわかるため、両方を合わせて見ることで、より多角的な投手評価が可能です。この指標を活用し、野球観戦をさらに楽しんでみてください。

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