DH制とは?なぜセ・リーグは導入しない?パ・リーグとの根本的な違いを徹底解説

DH制とは?なぜセ・リーグは導入しない?パ・リーグとの根本的な違いを徹底解説

プロ野球のDH制(指名打者制度)とは何か、基本ルールからパ・リーグとセ・リーグの根本的な違いを解説します。セ・リーグが導入しないのは、伝統や投手が打席に立つ戦術性を重視するためです。本記事を読めばDH制の全てが分かります。

目次

DH制とは?基本のルールをわかりやすく解説

DH制とは 基本のルールをわかりやすく解説

プロ野球の試合を見ていると、よく耳にする言葉に「DH」があります。特にパシフィック・リーグ(パ・リーグ)の試合では当たり前のように使われていますが、具体的にどのようなルールなのかご存知でしょうか。

DH制は、野球の戦術や試合展開に大きな影響を与える重要なルールです。この章では、DH制の基本的なルールについて、初心者の方にも分かりやすく解説します。

DH制は指名打者制度のこと

DH制とは、Designated Hitter(デジグネイテッド・ヒッター)の略称で、日本語では「指名打者制度」と呼ばれています。文字通り、あらかじめ「指名された打者」が試合に出場する制度のことです。この制度は、主に投手の打撃による負担を軽減し、より攻撃的な試合展開を生み出すことを目的として導入されました。

ピッチャーの代わりに打つ専門の選手

野球では通常、ピッチャー(投手)も他の野手と同様に打順が組まれ、自分の番が来たらバッターボックスに立って打撃を行います。しかし、DH制を採用している試合では、ピッチャーの代わりに打撃を専門に行う選手(指名打者)を打順に入れることができます。

これにより、ピッチャーは打席に立つことなく投球に専念でき、チームは打撃力の高い選手を一人多く起用できるため、得点力が向上する傾向にあります。

DH制の詳しいルールと条件

DH制には、ただピッチャーの代わりに打つだけでなく、細かいルールが存在します。ここでは、基本的なルールと交代、そしてDHが試合から無くなる「DH解除」の条件について表で詳しく見ていきましょう。

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項目ルールの詳細
基本的な役割
  • DH(指名打者)は、ピッチャーの打順に入り、ピッチャーに代わって打撃を行う
  • DHは守備には就くことができない
  • 試合開始前のスターティングメンバー発表時に、ピッチャーの打順に入るDHを指名する必要がある
DHの交代
  • DHの選手に代わって、代打や代走を送ることができる
  • その場合、代わって出場した選手が新しいDHとなり、引き続きその打順を引き継ぐ
DHの解除(消滅)①
  • DHの選手が、試合の途中でキャッチャーやファーストなどの守備に就いた場合、DHの権利は消滅する
  • この場合、ピッチャーがDHの選手の打順を引き継ぎ、打席に立たなければならない
DHの解除(消滅)②
  • ピッチャー自身が、DHの選手の代わりに打席に立った(または代打に出た)場合も、DHの権利は消滅する
重要な注意点
  • 一度DHの権利を放棄(解除)すると、その試合で再びDH制を利用することはできない
  • 一度ピッチャーが打順に入ると、試合終了までその打順で打撃を行う必要がある

パ・リーグとセ・リーグのDH制における決定的な違い

パ・リーグとセ・リーグのDH制における決定的な違い

日本のプロ野球は「セントラル・リーグ(セ・リーグ)」と「パシフィック・リーグ(パ・リーグ)」の2つのリーグに分かれており、その最も大きなルールの違いがDH(指名打者)制の有無です。この違いが、両リーグの戦術や選手起用に大きな特色をもたらしています。

DH制を採用しているパ・リーグ

パ・リーグでは、1975年からDH制が採用されています。 これは、投手の打撃による負担を軽減し、攻撃力を高めることで、試合をよりエキサイティングにすることを目的として導入されました。

DH制があることで、投手はピッチングに専念でき、打線には打撃専門の選手を起用できるため、切れ目のない強力な打線を組みやすくなります。これにより、試合全体を通じて得点が入りやすく、ダイナミックな試合展開が期待できるのが特徴です。

DH制を採用していないセ・リーグ

一方、セ・リーグでは現在(2025年シーズン時点)DH制※を採用していません。 そのため、投手も9人の打者の一人として打順に入ります。多くの場合、投手は打撃が得意ではないため、9番打者を務めることが一般的です。

投手の打順が回ってきた場面で、監督が代打を送るのか、そのまま打たせるのか、あるいはバントをさせるのかといった采配が試合の重要な鍵を握ります。この監督の戦術的な手腕や、投手が打席で見せる意外な一打もセ・リーグの野球の醍醐味の一つと言えるでしょう。

※2027年シーズンからDH制を導入することが決定

交流戦や日本シリーズでのDH制の扱い

普段は異なるルールで戦う両リーグですが、年に一度の「セ・パ交流戦」や、シーズンの王者を決める「日本シリーズ」では直接対決します。その際のDH制の扱いは、重要なポイントです。

主催球団のルールが適用されるのが基本

交流戦や日本シリーズでは、その試合を主催するチームが所属するリーグのルールが適用されます。 つまり、パ・リーグ球団の本拠地で試合を行う場合はDH制が採用され、セ・リーグ球団の本拠地ではDH制は採用されません。 このルールにより、各チームは普段とは異なる条件下での戦いを強いられることになります。

ルール適用の具体例を比較

ルールの違いが、両リーグのチームにどのような影響を与えるのか、以下の表で具体的に比較してみましょう。

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項目パ・リーグ球団の主催試合セ・リーグ球団の主催試合
DH制の有無ありなし
投手の打席打席に立たない打順に組み込まれ、打席に立つ
主な影響
(主に交流戦・日本シリーズ)
  • セ・リーグの投手は打席に立つ必要がない
  • パ・リーグは普段通りの戦い方ができる
  • セ・リーグは普段使わないDH枠で打撃専門の選手を起用できる
  • パ・リーグの投手も打席に立たなければならない
  • パ・リーグのDH専門選手は代打での出場か、慣れない守備に就く必要がある
  • セ・リーグは普段通りの戦い方ができる

このように、セ・リーグ主催試合では、パ・リーグのDHを主戦場とする強打者の起用法が制限されるため、チーム全体の戦略に大きな影響を及ぼします。逆にパ・リーグ主催試合では、セ・リーグのチームがDHをどう活用するかが、得点力を左右すします。

なぜセ・リーグはDH制を導入しないのか?その理由を考察

なぜセ・リーグはDH制を導入しないのか?その理由を考察

パ・リーグが1975年に指名打者(DH)制を導入して以来、セ・リーグがなぜ追随しないのかは、長年にわたり野球ファンの間で議論されてきました。 背景には、単なるルールの違いだけでなく、野球観や興行、歴史的経緯など、複数の要因が複雑に絡み合っています。ここでは、セ・リーグがDH制を導入しない主な理由を3つの側面から深く掘り下げて考察します。

(※2027年シーズンよりセ・リーグでも導入)

理由1 投手が打席に立つ戦術の面白さ

セ・リーグがDH制を導入しない最大の理由として挙げられるのが、投手が打席に立つことで生まれる戦術の多様性です。

試合終盤、1点を争う緊迫した場面で投手に打順が回ってきたとき、監督は「続投させるか、代打を送るか」という重大な決断を迫られます。 この采配一つが試合の流れを大きく左右するため、ファンにとっては大きな見どころの一つとなっています。

例えば、以下のような状況が考えられます。

  • 好投を続けている先発投手を、得点のチャンスのために交代させるか。
  • 投手にそのまま打たせるのか、あるいは送りバントなどの作戦を指示するのか。
  • どのタイミングで、誰を代打に送るのか。

これらの駆け引きは、DH制のあるパ・リーグではほとんど見られません。 投手も9人目の野手として攻撃に参加することで、監督の采配の妙や、野球本来の「9人で戦う」という面白さが際立つと考える関係者やファンは少なくありません。

理由2 伝統を重んじるという考え方

セ・リーグには、「投手も打席に立つのが野球本来の姿である」という伝統的な価値観が根強く残っています。 1975年にパ・リーグがDH制導入を検討した際、セ・リーグは「野球の伝統を根本的に覆しすぎる」といった理由を挙げて反対しました。 この考え方は、現在もリーグの根底に流れています。

メジャーリーグ(MLB)でも、長らくナショナル・リーグはDH制を採用しておらず、伝統的なスタイルを維持していました。

セ・リーグもこれに倣う形で、リーグとしてのアイデンティティを保ってきた側面があります。パ・リーグが人気向上のためにDH制を導入したのとは対照的に、セ・リーグは伝統的な野球の魅力を守り続けることを選択したのです。 これにより、両リーグの特色が生まれ、野球の多様性が保たれているという意見もあります。

理由3 ファンや球団の間で賛否が分かれている

DH制の導入については、ファンや球団の間でも意見が真っ二つに割れており、合意形成が非常に難しいという現実があります。 これまでにも読売ジャイアンツなどが導入を提案してきましたが、全会一致には至っていません。

ファンや球団の主な意見をまとめると、以下のようになります。

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立場主な意見
賛成派
  • 打撃戦が増え、試合がよりエキサイティングになる
  • 投手が打撃や走塁による怪我のリスクを負う必要がなくなる
  • 打撃専門のベテラン選手や外国人選手の活躍の場が増える
  • 国際大会のルールに合わせるべきだ
反対派
  • 監督の采配の面白さが減る
  • 「投手も野球選手」という伝統的な野球観が失われる
  • セ・パ両リーグの個性がなくなり、野球の多様性が損なわれる
  • DH専門の選手を抱えることによるチーム編成や年俸の問題

このように、DH制導入は攻撃力向上や選手の負担軽減といったメリットがある一方で、戦術的な面白さや伝統が失われるというデメリットも指摘されています。

どちらの意見にも一理あるため、長年にわたって議論は平行線をたどり、セ・リーグは現状維持を選択し続けているのです。

DH制のメリットとデメリットを両リーグの視点から比較

DH制のメリットとデメリットを両リーグの視点から比較

DH制(指名打者制度)は、野球の試合に大きな影響を与えるルールです。パ・リーグが採用し、セ・リーグが採用していないこの制度には、それぞれメリットとデメリットが存在します。両リーグの視点から多角的に比較することで、DH制がもたらす本質的な違いを深く理解することができます。

DH制を導入するメリット

DH制の導入は、特に攻撃面において多くの利点をもたらします。パ・リーグの試合で見られるような、DH制ならではの魅力を掘り下げていきましょう。

投手が投球に専念できる

DH制の最大のメリットは、投手が打撃や走塁の負担から解放され、投球に集中できる点です。 投球以外の練習に時間を割く必要がなくなり、ピッチング技術の向上に専念できます。

また、打席でのデッドボールや走塁中の捻挫といった、攻撃参加時に起こりうる怪我のリスクを回避できることも大きな利点です。これにより、投手はマウンドでのパフォーマンスを最大限に発揮しやすくなり、結果として投手分業制の確立や選手の長寿命化にも繋がる可能性があります。

打撃専門のベテラン選手などが活躍できる

DH制は、「打撃は一流だが、守備に課題がある」といった選手に活躍の場を与えます。 全盛期を過ぎたベテラン選手や、守備に不安を抱える外国人選手でも、その打棒を活かしてチームに貢献することが可能です。

実際に、DH制があることで選手生命が延びたと語る名選手もいます。 攻撃に特化した選手を一人多くラインナップに加えられるため、チームはより強力な打線を組むことができ、戦術の幅も広がります。

攻撃的な試合展開になりやすい

DH制では、打順の中に打撃を不得手とする投手がいないため、1番から9番まで切れ目のない強力な打線が実現します。

下位打線でも長打が期待でき、試合終盤まで得点のチャンスが続くスリリングな展開が多くなります。ファンにとっては、派手な打撃戦やホームランが飛び交うエキサイティングな試合を楽しめるというメリットがあります。 実際に、DH制は得点力の向上を目的として導入された歴史があります。

DH制を導入するデメリット

一方で、DH制には野球の伝統的な面白さを損なう可能性も指摘されています。セ・リーグがDH制を導入しない理由とも重なる、制度のデメリットについて考察します。

監督の采配の妙が減る

DH制のないセ・リーグでは、投手の打順が試合の大きな分岐点となります。投手に代打を送るか、続投させるかという監督の決断は、試合の流れを大きく左右する采配の醍醐味です。

代打を送れば次の回から新しい投手を投入する必要があるため、継投策が複雑になり、監督の手腕が問われます。 DH制ではこの駆け引きがなくなるため、戦術的な面白みが減ると感じるファンも少なくありません。

投手の打席という見どころがなくなる

投手も9人目の野手として攻撃に参加することは、野球本来の姿です。 打撃の良い投手がヒットを打ったり、意表を突くバントを決めたりする場面は、試合の大きな見どころとなり得ます。

DH制の導入は、こうした「9人全員で戦う野球」という伝統的な魅力を失わせるという意見もあります。 投打で活躍する選手の登場機会が減ることを惜しむ声も聞かれます。

若手野手の出場機会が減る可能性

DHのポジションは、多くの場合、打撃力のある実績豊富なベテランや外国人選手で固定される傾向にあります。そのため、代打や守備固めなどで一軍での経験を積みたい若手野手にとって、出場機会が1つ減ってしまう側面が指摘されています。

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メリット
(DH制導入リーグの視点)
デメリット
(DH制非導入リーグの視点)
選手・チーム投手が投球に専念でき、怪我のリスクが減る若手野手の出場機会が減る可能性がある
戦術・采配打撃専門の選手を起用でき、攻撃の選択肢が増える投手の交代時期を巡る采配の妙が減る
試合展開切れ目のない打線で攻撃的な試合になりやすい投手の打席という意外性のある見どころがなくなる

主力選手をDHで起用し休養させ、その選手の守備位置に若手を起用することで、逆に若手の出場機会を創出しているという見方もあります。

DH制に関する豆知識 メジャーリーグや高校野球ではどうなってる?

日本のプロ野球、NPB(日本野球機構)ではパ・リーグのみが採用しているDH制ですが、世界に目を向けるとどのような状況なのでしょうか。

野球の世界最高峰であるメジャーリーグベースボール(MLB)や、多くの野球少年が目指す甲子園でおなじみの高校野球、さらには大学・社会人といったアマチュア野球でのDH制の採用状況を解説します。

メジャーリーグ(MLB)のDH制

メジャーリーグでは、1973年にアメリカン・リーグが観客動員の増加を目的としてDH制を導入しました。

これにより、打撃を得意としない投手の代わりに打撃専門の選手が出場することで、より攻撃的でエキサイティングな試合展開が期待されました。 一方で、ナショナル・リーグは伝統的な「投手も打席に立つ」というスタイルを長らく堅持していました。

ついに両リーグで導入!歴史的転換点

長年、両リーグで異なるルールが採用されてきましたが、2022年シーズンから、メジャーリーグの歴史における大きな転換点として、ナショナル・リーグでも恒久的にDH制が導入されることになりました。

ワールドシリーズを含めた全てのMLBの試合でDH制が採用される「ユニバーサルDH」が実現し、投手は投球に専念するのが基本となりました。 この変更は、選手の分業化が進む現代野球の流れを汲んだものであり、投手の打席での怪我のリスクを減らす目的も含まれています。

日本の高校野球やアマチュア野球でのDH制

日本国内のアマチュア野球界では、DH制の扱いはカテゴリによって大きく異なります。特に高校野球では、独自の考え方に基づいてルールが運用されています。

甲子園では未採用!高校野球のDH制

春の選抜高等学校野球大会や夏の全国高等学校野球選手権大会、いわゆる「甲子園」では、現在DH制は採用されていません

しかし、選手の健康管理や、より多くの選手に出場機会を与えるといった観点から、DH制導入に関する議論は長年行われてきました。その結果、2026年度の公式戦からDH制を導入することが決定しており、春の選抜大会から適用される見込みです。 これまで、地方大会では各都道府県の高等学校野球連盟の判断で導入が進められており、地域によって対応が分かれている状況でした。

大学・社会人野球では一般的

高校野球とは対照的に、大学野球や社会人野球ではDH制は広く普及しています。東京六大学野球連盟や関西学生野球連盟といった歴史あるリーグでも近年導入が決定されるなど、アマチュア野球のトップレベルではDH制がスタンダードとなりつつあります。

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カテゴリDH制の採用状況
セ・リーグ (NPB)不採用(※2027年シーズンより導入)
パ・リーグ (NPB)採用
メジャーリーグ (MLB)両リーグで採用
高校野球 (甲子園)不採用 (※2026年度より導入予定)
大学野球・社会人野球多くのリーグ・大会で採用

これは、レベルが上がるにつれて選手の専門性が高まり、試合の攻撃的な面白さを追求する傾向が強まるためと考えられます。

まとめ

まとめ
DH制とは?なぜセ・リーグは導入しない?パ・リーグとの根本的な違いを徹底解説

DH制(指名打者制度)とは、投手の代わりに打撃専門の選手が出場するルールです。日本のプロ野球ではパ・リーグが採用し、セ・リーグは採用していません。

セ・リーグがDH制を導入しない主な理由として、投手が打席に立つことで生まれる戦術の面白さや伝統を重んじる考え方が根強く、ファンや球団の間でも意見が分かれているためです。

DH制は投手の負担軽減や攻撃的な試合展開といったメリットがある一方、監督の采配の妙が減るなどのデメリットも存在します。この制度の有無が、両リーグの野球のスタイルや魅力を決定づける大きな要因となっています。

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