
セーブの定義とルールを分かりやすく解説

野球の試合終盤、僅差のリードを守り抜き、チームを勝利に導いたリリーフ投手に与えられる記録が「セーブ」です。現代野球において投手分業制が確立される中で、特に試合を締めくくる役割を担う「クローザー」や「抑え投手」の価値を示す最も重要な指標として知られています。
1974年に日本プロ野球で公式記録として採用されて以来、数々の名場面で記録されてきました。 このセーブが記録されるためには、公認野球規則で定められた複数の条件をすべて満たす必要があります。 一見複雑に見えるこのルールを、一つひとつ丁寧に解き明かしていきましょう。
セーブがつく3つの条件を徹底解説
セーブを記録するためには、まず大前提となる基本条件を満たしたうえで、さらに特定の状況下での登板内容が求められます。
基本となるのは「勝利チームの最後の投手であること」と「勝利投手の権利を持たないこと」の2点です。
そして、これらを満たした上で、僅差の場面でチームの勝利にどれだけ貢献したかを示す「リードの状況に応じた貢献度」という3つ目の条件のいずれか一つをクリアする必要があります。 これら3つの条件について、詳しく解説していきます。
条件1:勝利チームの最後の投手であること
セーブが記録されるための最も基本的な条件は、勝利したチームの試合終了の瞬間までマウンドに立っていた投手であることです。たとえセーブがつく状況で登板したとしても、途中で他の投手に交代してその投手が試合を締めくくった場合、最初に登板した投手にはセーブは記録されません。
あくまで最後の打者をアウトにし、チームの勝利を見届けた投手にのみ、セーブの権利が与えられます。また、最低でも1つのアウトを取る必要があります。
条件2:勝利投手の権利を持たないこと
次に重要なのが、セーブと勝利投手の記録は同時には得られないというルールです。 投手には投球内容に応じて「勝利」「敗戦」「セーブ」「ホールド」のいずれか1つしか記録されません。
例えば、同点の場面で登板し、その後に味方が勝ち越してそのまま勝利した場合、その投手は「勝利投手」となります。 このように、自身の投球中にチームが勝ち越しを決めたことで勝利投手の権利を得た場合、試合を最後まで投げ抜いてもセーブは記録されないのです。
条件3:リードの状況に応じた貢献度
上記の2つの基本条件を満たした上で、以下の3つの項目のうち、いずれか1つでもクリアすればセーブが記録されます。 この条件は、いかに緊迫した場面でリードを守り切ったかを示すものであり、セーブの価値を定義づける核心部分と言えます。
| 項目 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 1. 3点差以内のリードで1イニング以上投げる | 自チームが3点以内のリードの状況で登板し、少なくとも1イニング以上を投げて試合を終了させた場合 | 5対3の2点リードで9回のマウンドに上がり、無失点で3つのアウトを取って試合を締めくくった |
| 2. 逆転の走者がいる状況で登板する | 塁上の走者が全員生還すると同点または逆転される状況で登板し、リードを守り切って試合を終了させた場合。 この場合は投球イニング数は問われない | 4対1の3点リード、9回2アウト満塁の場面で登板し、次の打者を打ち取って試合を締めくくった |
| 3. 3イニング以上を投げる | 点差に関わらず、少なくとも3イニング以上を投げてリードを守り切り、試合を終了させた場合 | 10対2の8点リードで7回から登板し、7回、8回、9回の3イニングを無失点で投げきり試合を締めくくった |
歴代の最多セーブ投手たち
セーブは、チームの勝利に直結する重要な記録であり、この記録を積み重ねた投手は「絶対的守護神」としてファンに記憶されます。
日本プロ野球(NPB)において、その頂点に立つのが元中日ドラゴンズの岩瀬仁紀投手です。 彼が記録した通算407セーブは、前人未到の大記録として今なお輝きを放っています。
| 順位 | 選手名 | 通算セーブ数 |
|---|---|---|
| 1位 | 岩瀬仁紀 | 407 |
| 2位 | 佐々木主浩 | 252 |
| 3位 | 高津臣吾 | 286 |
また、「大魔神」の愛称で親しまれた佐々木主浩投手や、日米で活躍した高津臣吾投手なども、歴代のセーブ数ランキングにその名を刻んでいます。 このように、歴代の最多セーブ投手たちは、その時代の最強クローザーの証として、球史に名を残しているのです。
※日米通算記録では順位が異なる場合があります。
ホールドの定義とルールを分かりやすく解説

セーブが試合の締めくくりを評価する指標であるのに対し、ホールドは試合中盤でリードを守り、勝利に貢献した中継ぎ投手に与えられる記録です。ここでは、少し複雑なホールドのルールと、それがどのように投手を評価する指標となっているのかを詳しく見ていきましょう。
ホールドがつく複雑な条件を整理
ホールドは、2005年に日本のプロ野球で正式に導入された比較的新しい記録です。試合の流れの中で重要な役割を果たす中継ぎ投手の貢献度を正しく評価するために作られました。
ホールドが記録されるためには、以下の複数の条件をすべて満たす必要があります。
| 条件 | 詳細な内容 |
|---|---|
| 記録対象の投手 | 先発投手、勝利投手、敗戦投手、セーブを記録した投手のいずれでもないこと。つまり、純粋な中継ぎ投手が対象となります |
| 登板時の状況 | 自チームがリードしている場面で登板すること。同点や負けている場面での登板では、ホールドは記録されない |
| 投球内容 | 登板中に1アウト以上を取ること。一人もアウトにできずに降板した場合は、条件を満たさない |
| 降板時の状況 | 降板するまで一度も同点や逆転を許さず、リードを保ったまま次の投手にマウンドを譲ること。 たとえ1アウトも取れずに降板しても、後続の投手がその走者を還して同点や逆転になった場合、ホールドはつかない |
| リードの状況 | 上記の条件を満たした上で、以下のいずれかの状況に該当すること。(セーブがつく条件の「リード状況」と似ている) ・3点以内のリードの状況で登板し、1イニング以上投げる ・登板時の次の2人の打者に連続でホームランを打たれたら同点または逆転される状況で登板する(例:2点リードで走者なし、3点リードで走者1人など) |
これらの条件から分かるように、ホールドは僅差のリードを守り抜き、次の投手へ良い形でバトンを渡したことの証明となる記録です。1試合に複数人の投手にホールドが記録されることもあります。
最優秀中継ぎ投手とホールドポイントの関係
ホールドという記録は、セ・パ両リーグで制定されている個人タイトル「最優秀中継ぎ投手」を選出するために非常に重要です。このタイトルは、単純なホールド数だけで決まるわけではなく、「ホールドポイント(HP)」という独自の指標で争われます。
ホールドポイントは、以下の計算式で算出されます。
ホールドポイント(HP) = ホールド数 + 救援勝利数
「救援勝利」とは、リリーフとして登板した際に、チームが逆転するなどして勝利投手になった場合を指します。例えば、同点の場面で登板して無失点に抑え、その裏の攻撃で味方が勝ち越してそのまま勝利した場合などに記録されます。
僅差のリードを守るホールドだけでなく、苦しい場面で流れを呼び込み勝利に貢献した救援勝利も評価に加えることで、より総合的に中継ぎ投手の働きを評価しようというのがホールドポイントの考え方です。
この合計値がシーズンで最も多かった投手が、最優秀中継ぎ投手の栄誉に輝きます。過去には岩瀬仁紀投手、浅尾拓也投手、宮西尚生投手、清水昇投手など、球史に残る名リリーフ投手がこのタイトルを獲得しています。
セーブとホールドの違いを3つのポイントで比較

セーブとホールドは、どちらも試合の後半に登板するリリーフ投手の活躍を評価するための重要な指標ですが、その意味合いや記録される条件は大きく異なります。ここでは、その違いを3つの明確なポイントに分けて、分かりやすく解説していきます。
ポイント1 役割の違い 抑え投手と中継ぎ投手
セーブとホールドの最も大きな違いは、記録する投手の任される役割にあります。それぞれの指標が、どの役割を担う投手を評価するために作られたのかを理解することが、違いを知る第一歩です。
セーブは、主に「抑え投手(クローザー)」に記録される指標です。 抑え投手は、チームがリードした試合の最終回という、最もプレッシャーのかかる場面で登板し、リードを守り切って試合を締めくくる「最後の砦」です。 まさにチームの守護神であり、その重要な役割を評価するのがセーブなのです。
一方、ホールドは「中継ぎ投手(セットアッパーなど)」の功績を示す指標です。 中継ぎ投手は、先発投手の後を受けて登板し、リードを保ったまま抑え投手へと繋ぐ役割を担います。 試合の流れを決定づける重要な局面を任されるセットアッパーなどの活躍が、ホールドという形で記録されるのです。
ポイント2 場面の違い 試合終了時か試合途中か
セーブとホールドでは、記録が確定するタイミングと登板する場面が明確に異なります。この違いを理解することで、試合観戦がさらに面白くなるでしょう。
セーブが記録されるのは、必ず試合が終了した時です。セーブの条件の一つに「勝利チームの最後の投手であること」が含まれているため、試合の途中で降板した投手にセーブがつくことはありません。 主にチームがリードした9回(最終回)に登板し、最後まで投げ抜くことで初めて記録されるのです。
対照的に、ホールドは試合の途中で記録される指標です。 中継ぎ投手がホールドの条件を満たした投球をしてリードを保ったまま降板した時点で、記録の権利が発生します。その後にチームが逆転負けを喫したとしても、一度記録されたホールドが消えることはありません。
この違いを以下の表にまとめました。
| 指標 | 記録されるタイミング | 主な役割 |
|---|---|---|
| セーブ | 試合終了時 | 抑え投手(クローザー) |
| ホールド | 試合途中(降板時) | 中継ぎ投手(セットアッパーなど) |
ポイント3 ルールの違い 同時に記録されることはあるか
セーブとホールドのルールを理解すると、両者の違いがより明確になります。特に、「1人の投手が同じ試合で両方を記録できるのか」という疑問は、多くの野球ファンが抱くところでしょう。
結論から言うと、1人の投手が同じ試合でセーブとホールドを同時に記録することは絶対にありません。 なぜなら、それぞれの記録が成立するためのルールが互いに両立しないからです。
セーブの絶対条件は「勝利チームの最後の投手として、試合終了まで投げ切ること」です。 一方、ホールドの条件には「試合の最後まで投げないこと(交代完了投手ではないこと)」が含まれています。 つまり、試合を締めくくる投手(セーブの対象)と、途中でマウンドを降りる投手(ホールドの対象)という、役割の前提が根本的に異なるのです。
ただし、1つの試合の中で、異なる投手にそれぞれセーブとホールドが記録されることは一般的です。例えば、7回に登板したA投手にホールド、8回に登板したB投手にホールド、そして9回を締めたC投手にセーブがつく、という継投は現代野球における勝利の方程式の典型的なパターンです。
投手起用の意味から見るリリーフ陣の重要性

現代野球において、先発投手が9回を投げ抜く「完投」は非常に稀になり、リリーフ投手(中継ぎ・抑え)の重要性が増しています。試合の勝敗は、リリーフ陣の出来に大きく左右されると言っても過言ではありません。リードしている試合の終盤を、特定の投手リレーで逃げ切る継投策は「勝利の方程式」と呼ばれ、チームの戦い方の根幹をなしています。
この章では、なぜ専門のクローザー(抑え)やセットアッパー(中継ぎ)が起用されるのか、その投手起用の意味とリリーフ陣の重要性について掘り下げていきます。
なぜ専門のクローザーを起用するのか
クローザーは、主にセーブがつく場面、つまり僅差でリードしている試合の最終回に登板し、試合を締めくくる役割を担う投手です。 「守護神」とも呼ばれるこのポジションには、他の投手にはない特殊な能力と精神的な強さが求められます。
最大の理由は、試合を締めくくるという極度のプレッシャーがかかる場面で最高のパフォーマンスを発揮することが求められるためです。 1点差の9回裏、一打サヨナラの場面での登板は、通常の場面とは比較にならないほどの緊張感が伴います。このような状況でも動じず、自分のピッチングができる精神的なタフさは、クローザーにとって最も重要な資質と言えるでしょう。
また、短いイニングを全力で抑えるため、打者を圧倒できる絶対的な決め球(ウィニングショット)を持っていることも重要な要素です。150km/hを超える速球や、鋭く落ちるフォークボールなど、相手打者が分かっていても打てないボールを持つ投手がクローザーとして起用される傾向にあります。
役割を最終回に特化させることで、その1イニングに全ての力を注ぎ込み、相手に反撃の隙を与えずに試合を終わらせることができるのです。
試合の流れを左右するセットアッパーの投手起用
セットアッパーは、クローザーへ繋ぐ前の回、主に8回などの試合終盤の重要な局面を任される中継ぎ投手です。 クローザーが注目されがちですが、試合の勝敗を分ける最も重要な局面を任されるのはセットアッパーであることも少なくありません。
セットアッパーの役割は、リードを守り抜き、クローザーに万全の状態でバトンを渡すことです。 特に8回は相手チームも上位打線から始まることが多く、試合の流れが傾きやすいイニングです。 ここで流れを相手に渡さないピッチングができるかどうかは、勝利に直結します。そのため、リリーフ投手の中ではクローザーに次ぐ実力者がこの役割を担うことが一般的です。
また、投手起用の観点からは、相手打者との相性も重要になります。右の強打者が続く場面では右のサイドスローの投手を、左の好打者を抑えたい場面では左のワンポイントリリーフを起用するなど、監督の采配が光る場面でもあります。
ときにはイニングをまたいで投げたり、連投したりすることも求められるため、クローザーとは異なる種類のタフさも必要です。以下の表は、セットアッパーとクローザーの主な役割と求められる能力を比較したものです。
| 役割 | 主な登板イニング | 求められる能力・特徴 |
|---|---|---|
| セットアッパー | 7回、8回など試合終盤 | リードを守りクローザーに繋ぐ、対ピンチ能力、連投もこなすタフさ |
| クローザー | 9回(最終回) | 試合を締めくくる、絶対的な決め球、極度のプレッシャーに打ち勝つ精神力 |
このように、リリーフ陣はそれぞれの役割に特化した投手たちが「分業制」を敷くことで、チームの勝利に貢献しています。
先発投手が試合を作り、セットアッパーが試合の重要な流れを掴み、そしてクローザーが勝利を確定させる、この「勝利の方程式」の存在こそが、現代野球におけるリリーフ陣の重要性を物語っているのです。

まとめ

本記事では、セーブとホールドの定義やルールの違い、そして投手起用における意味を解説しました。セーブは勝利試合の最後を締めくくる抑え投手に、ホールドは試合中盤でリードを守った中継ぎ投手に与えられる記録です。
両者は記録される場面や役割が明確に異なり、現代野球において勝利のためには専門のリリーフ投手の存在が不可欠です。クローザーやセットアッパーの活躍が、チームの勝敗を大きく左右するのです。

